騒音による防音壁設置等請求について

神戸地裁平成29年2月9日判決は,保育園の近隣に居住する住民である原告が,被告である社会福祉法人に対して,保育園敷地に隣接する土地との境界線上で50dB以下とする防音設備を設置することと,不法行為に基づく慰謝料の支払を求めた事案で請求を棄却しました。判決では,まず「第三者の事業活動に伴って発生する騒音による被害が,原告に対する関係において,違法な権利侵害ないし利益侵害になるかどうかは,侵害行為の態様,侵害の程度,被侵害利益の性質と内容,侵害行為の持つ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度等を比較検討するほか,当該地域の地域環境,侵害行為の開始とその後の継続の経過及び状況,その間に採られた被害の防止に関する措置の有無及びその内容,効果等の諸般の事情を総合的に考慮して,被害が一般社会生活上受忍すべき限度を超えるものかどうかによって決するのが相当である。」と一般論を述べたうえ,一日の大半を原告宅で過ごすことの多い原告にとっての騒音の影響は決して小さくないこと,本件保育園は公益性・公共性が認められるものの,本件保育園に通う園児を持たない原告を含む近隣住民にとってみれば,直接その恩恵を享受しているものではなく,本件保育園の開設によって原告が得る利益とこれによって生じる騒音被害との間には相関関係を見出しがたいこと,損害賠償請求ないし防音設備の設置請求の局面で本件保育園が一般的に有する公益性・公共性を殊更重視して,受忍限度の程度を緩やかに設定することはできないことなどを指摘しています。しかし,環境基準における騒音の評価手法は,時間の区分ごとの全時間を通じた等価騒音レベルによって評価することを原則とすること,騒音源と被侵害者の居宅との距離,騒音の減衰量等をも踏まえて検討すべきこと,被告が本件保育園の設置に
際し,本件保育園の近隣住民に対する説明会を1年ほどかけて行い,その間,本件保育園から生じる騒音の問題に係る原告を含めた近隣住民からの質問・要望等に対して検討を重ね,既設の保育園で測定した騒音結果から本件保育園の騒音の推定値を算出した上で,防音壁を設置し,一部の近隣住民に対して被告の負担において二重サッシに取り換えることを提案・合意するなどして騒音対策を講じるよう努めてきたこと,最終的に原告とは折り合いがつかなかったものの,被告側から原告宅敷地境界線における防音対策による問題解決の提案がされたことを指摘し,結論としては,原告の請求を棄却しています。