医療機関への連絡等の遅れについて安全配慮義務違反が認められた事例

岡山地裁平成18年4月13日判決は,当時5歳であった女児が保育時間中,嘔吐したのち救急搬送され,痙攣重積症等と診断されたのち,知的障害の判定を受けた事案で,保育園を開設している被告に対し,救急搬送の手配等の措置を適時にとらず1時間以上も治療着手が遅れ,呼吸停止等による脳の酸素不足を招いて,原告に知能障害を生じさせあるいは知能障害を悪化させる後遺障害を生じさせた等と主張し,損害賠償を求めた事案において「保母らにおいて,原告が嘔吐を反復し,少なくとも軽度の痙攣発作を2度に亘って起こし,呼びかけに対する反応も平素とは違う異常な状態にあることは確認できたのであるから,保護者である母eに連絡するにとど
まるのではなく,嘱託医等の然るべき医療機関に連絡してその指示を仰ぐべき保母としての義務を怠ったことは否定できず,その結果,早期に,原告を救急治療する機会を喪失したものというべきである。」として安全配慮義務違反を認めましたが,「原告の退院後の経過は良好であはって,退院後,退行した形跡は窺えないことや,学齢期になって,知的活動の範囲が拡大し,学習内容がより高度になってくると,知的な遅れによる格差がより顕在化してくるも
のと考えられることなどに照らすと,現在の原告の知能障害が,本件事故前からあった発達の遅れが顕在化したものでなく,悪化した結果によるものであるとまではにわかに認定し難く,悪化したものと認めうる的確な資料もない。そうすると,呼吸停止,痙攣重積症の治療が遅れたことによって,原告の知能障害が悪化したものとも認め難い。」として,安全配慮義務違反と知能障害等の因果関係を否定しました。そのうえで,「原告に左手の運動障害の後遺障害が相当期間残存していたことは否定できないから,そのために,原告が受けた精神的苦痛は慰謝されるべき」「安全配慮義務を尽くし,早期に救急治療を受ける機会を得ておれば,現在のような状況には至っていなかったかも知れないと両親ともども残念な想いが残ることは否めず,被告の安全配慮義務違反によって,最善の医学的処置を受ける機会を喪失する結果となり,これによって精神的苦痛を被っている」として慰謝料合計150万円を認め,弁護士費用相当損害金と併せて165万円及び遅延損害金の支払を命じました。

ベッド上で伏臥中吐物を出し乳児が窒息死した事案の損害賠償について

京都地裁昭和50年8月5日判決は、乳児保育園を設置経営して乳児保育事業を行っている社会福祉法人である被告に対して,ベッド上で伏臥中、吐物を出して窒息死した乳児の父母が損害賠償を請求したところ、その請求を棄却した事案です。「被告は・・・保育を引受けたのであるから準委任の受任者として善良な管理者の注意を以て保育の任に当るべき義務があつたことは当然であり、・・・死亡当日迎えに来た(母)が傍へ来る少し前の頃吐物を吸引しそれが声門部にひつかゝり窒息死したものであるから、もしこの吐瀉をした時傍に保母がおり直ちに適当な処置をとつていたらこの事故を防止し得たのに折悪しく保母のNもMも傍におらずこの処置をとることができなかつたといわねばならないが当時原告らが保母に一郎の健康状態やT病院での診療状況を具さに告げて特別扱いを頼んでいた事実がなくかつこうした集団保育の場所で保母に乳児から片時も眼を離すなというのは難きを強うるものである。」などとして被告側に過失無しと判断しました。

 

園児同士の偶発的・瞬時の衝突事故と園の責任について

松山地裁平成9年4月23日判決(判タ967号203頁)は、被告経営の幼稚園において生じた,4歳児がほかの園児と衝突し,眼球瘢痕や視力低下などの後遺症を残した事故につき,安全配慮義務違反が争われた事案において「心身共に未熟な幼稚園児の教育、監護に当たる被告としては、担当教員において、可能な限り園内における園児の行動を見守り、危険な行動に及ぶ園児に適宜注意を与えるなど、園内での事故発生を未然に防止すべき安全配慮義務を負っているというべきである。」としつつ,「これを本件についてみるに、前記認定のとおり、本件事故は、被告幼稚園の四歳児の教室内において、園児・・・と原告とがぶつかって・・・歯が原告の右眼に当たって発生した蓋然性が高いが、朝の登園後の始業時間までの自由時間帯に発生しており、園児らは教室内で着替えや積木遊びをしていて、特に騒いだり暴れたりしている様子は見られなかったものであり、担任・・・は、床の清掃をして教室外に出たところで本件事故を察知し、直ちに駆けつけて応急処置を講じたものであって、以上からすれば、本件事故は、園児同士が教室内で偶発的、かつ瞬時に衝突したことによって発生したものと認めるのが相当である。そうすると・・・教員において、前記教室内の園児の状況等からして本件事故の発生を予見し、これを未然に防止することは無理であったといわざるを得ず、被告に安全配慮義務違反があったとは認め難いという外ない。」として,請求を棄却しています。

近隣住民への情報提供や相談及び助言

児童福祉法48条の4第1項は,「保育所は、当該保育所が主として利用される地域の住民に対してその行う保育に関し情報の提供を行い、並びにその行う保育に支障がない限りにおいて、乳児、幼児等の保育に関する相談に応じ、及び助言を行うよう努めなければならない。」,第2項は,「保育所に勤務する保育士は、乳児、幼児等の保育に関する相談に応じ、及び助言を行うために必要な知識及び技能の修得、維持及び向上に努めなければならない。」として,近隣住民への情報提供や相談及び助言に関して定めています。

都道府県知事による実地検査について

児童福祉法46条1項は,同法45条の基準を維持するため,都道府県知事は,児童福祉施設の設置者等に対して,必要な報告を求め,児童の福祉に関する事務に従事する職員に,関係者に対して質問させ,若しくはその施設に立ち入り,設備,帳簿書類その他の物件を検査させることができるとしています。


46条3項は,児童福祉施設の設備又は運営が第45条第1項の基準に達しないときは、都道府県知事は,その施設の設置者に対し,必要な改善を勧告し,又はその施設の設置者がその勧告に従わず,かつ,児童福祉に有害であると認められるときは,必要な改善を命ずることができるとしています。


46条4項は,都道府県知事は、児童福祉施設の設備又は運営が第45条第1項の基準に達せず、かつ、児童福祉に著しく有害であると認められるときは、都道府県児童福祉審議会の意見を聴き、その施設の設置者に対し、その事業の停止を命ずることができるとしています。

地方自治法252条の19第1号では,児童福祉に関する事務を政令指定都市が行うことができるとされ,地方自治法施行令174条の26は,児童福祉法及び児童福祉法施行令に関する事務を規定しています。

 

児童福祉法施行令第38条は、都道府県知事は、当該職員をして、一年に一回以上、国以外の者の設置
する児童福祉施設が法第45条1項の規定に基づき定められた基準を遵守しているかどうかを実地につき検査させなければならないとしています。

職業紹介事業者と保育所

 

保育所向けに,職業紹介事業者を選ぶときのポイント,利用する際の注意点が公表されています。厚生労働省の運営する「人材サービス総合サイト」(http://www.jinzai-sougou.go.jp/)を参照することで,職業紹介事業者を検索し職業紹介事業者に関する登録内容を確認することができます。

www.mhlw.go.jp/content/000519160.pdf

 

ほかに医療機関向けのリーフレットが公表されています。

www.mhlw.go.jp/content/000519160.pdf

児童福祉法45条

児童福祉法45条1項は,「都道府県は、児童福祉施設の設備及び運営について、条例で基準を定めなければならない。この場合において、その基準は、児童の身体的、精神的及び社会的な発達のために必要な生活水準を確保するものでなければならない。」としており,同条2項は,「都道府県が前項の条例を定めるに当たつては、次に掲げる事項については厚生労働省令で定める基準に従い定めるものとし、その他の事項については厚生労働省令で定める基準を参酌するものとする。」として,厚労省令で定める基準に従うべき事項と,参酌すべき事項に分類しています。例えば、児童福祉施設に配置する従業者及びその員数などは、厚生労働省令で定める基準に従うものと定めています。この45条2項にいう厚労省令として,児童福祉施設の設備及び運営に関する基準が定められています。同基準32条以下で定められている事項には,従うべき基準と参酌基準が 含まれています。各条例がどのように定めているかについては、その内容を横断的に取りまとめた厚労省の資料があります。https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000140477.html